捨てられない人生もいい 

書評 捨てない生きかた 五木寛之

タイトルに惹かれてこの本を詠みました。

 
結論から言うと、
私はもっと家を片付けて、自分が大好きだと言えるものだけに囲まれて暮らしたい。
もっともっと物を減らしたい。
という欲求に変化はありませんでした。
 
でも、
 
物が過去の記憶を呼び起こし、その時代の空気までも想起させる依代である
 
という筆者の言葉には説得力がありました。
 
なぜなら、我が家にある古びた着せ替え人形や、中学生の時からずーっと使っている勉強机の黒ずみを見ると、当時の自分の姿と共に、あの時のせつなく苦い感情が思い出されるからです。
 
戦争で焼け野原になった国土は、高度成長期に見事に復活を遂げたけれど、消えてしまったものも少なくはありません。
戦後77年を過ぎて、もはや戦争を知っている方も少なくなり、戦争遺跡以外に過去を物語るものがなくなってしまいました。
 
焼け焦げた衣服、防空壕の跡、証言集などから想像する他ありません。
 
日本は高度成長期を終え、下り坂の社会であると筆者は言います。
下り坂の社会は成熟した社会です。
物、場所を手掛かりに過去を想像し、振り返り、わが身はどうすべきか考える。
それが成熟した人間ならこそ、できることではないでしょうか?
 
まだまだ物を捨てて身軽になりたい、自由になりたい、と思っている私は、半熟人間なのだと思います。