村上春樹 「職業としての小説家」について

私は文章で自分の考えを伝えるのが苦手だ。
「今話してくれたみたに文章で表現できないの?」と上司に良く言われるが、仕事の書類を口語体の文章で表現することの方が難しい。さりとて、スピーチの読み原稿が上手かと言うとそうでもない、むしろ即興で話した方が上手いぐらいだ。
だから、この文章も書くことが得意になりたいという思いで必死に絞り出して書いている。
 
一方、村上春樹氏は書くことを苦痛と感じたことはなく、「書きたくなったら書く」というスタイルで今まで小説を書いてきたそうだ。
 
まず、1日10枚というペースを保って、浮かんでくるままに1回目を書く。その後しばらく時間を置いてから1回目の書き直しに取りかかって、全体の構成でおかしいところはないかを確認し、また時間を置いてから2回目の書き直しをしていくそうだ。
 
その作業は何度も繰り返されるが、一番大切なのは「養生」すること。つまり一定期間触らないで寝かしておくことだという。
 
小説は発酵食品ではないから、自然に物語に酸味が加わるとか深みが出るということはないのだろうが、小説に対する自身の目が一段高いところに置かれ、俯瞰して見えるようにするための時間なのかもしれない。
 
そうして、今度は第三者(奥様)の目が入り、更に細かい修正を重ねて作品ができるのだそうだ。
 
読んでいるだけで途方もない作業に辟易するが、村上氏本人には少しも苦ではないらしい。
 
すごい。職業としての小説家というのは、1つの物語が産声をあげ、自分の足で歩きだすまでにこんなにも慈しみ、手をかけて育てるのか!
 
他にも、誰のために書くのか、オリジナリティとは何か、登場人物はどうやって設定するのか、などご本人自身の言葉で語られているのが興味深い。
 
早くも、新しい小説が読みたくてうずうずしてきてしまった。